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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)418号 判決

昭和五〇年(ネ)第四一八号控訴人

昭和五〇年(ネ)第二〇〇号被控訴人

(第一審原告)

亀崎幸平

右訴訟代理人

陶山和嘉子

外一名

昭和五〇年(ネ)第四一八号被控訴人

(第一審被告)

鈴木英雄

右訴訟代理人

塩田省吾

外一名

昭和五〇年(ネ)第四一八号被控訴人

昭和五〇年(ネ)第二〇〇号控訴人

(第一審被告)

三菱重工業株式会社

右代表者

末永聡一郎

昭和五〇年(ネ)第四一八号被控訴人

(第一審被告)

横浜三菱自動車販売株式会社

右代表者

田辺辰雄

右両名訴訟代理人

仁科康

外一名

主文

1  第一審原告の第一審被告鈴木及び同横浜三菱自動車販売株式会社(以下「横浜三菱」と略す。)に対する各控訴並びに第一審被告三菱重工業株式会社(以下「三菱重工と略す。)の控訴を棄却する。

2  原判決中第一審被告三菱重工に関する部分を次のとおり変更する。

第一審被告三菱重工は、第一審原告に対し、金四〇六万一、九六二円及び内金三六九万一、九六二円に対する昭和四二年四月二九日以降、内金三七万円に対する本裁判確定の日から各完済まで年五分の金員の支払をせよ。

第一審原告の同被告に対するその余の請求を棄却する。

3  当審の訴訟費用中第一審原告と第一審被告鈴木及び同横浜三菱との間において生じた分は、第一審原告の負担とし、第一審原告と第一審被告三菱重工との間に生じた第一・二審の訴訟費用は、これを三分し、その一を第一審原告の負担とし、その二を第一審被告三菱重工の負担とする。

4  この判決は、第一審被告三菱重工に対し、金員の支払を命ずる部分に限り、仮りに執行することができる。

事実《省略》

理由

一事故の発生

〈証拠〉によりこれを認めることができる。

二第一審被告鈴木の責任

第一審被告鈴木が本件車両を所有して、本件事故当時これを同被告のために運行の用に供していたことについては、当事者間に争いがない。

そこで、同被告の主張する自賠法三条但し書にいう免責の抗弁について判断するに、後記認定のとおり、本件車両には構造上の欠陥があつたものと認められるので、同被告の運転上の過失の有無を審究するまでもなく、同被告は自賠法三条但し書の免責要件を充足せず、本件事故について損害賠償責任を免れることはできない。

三第一審被告三菱重工の責任

第一審被告三菱重工が助手席背もたれ前倒防止装置を装備していない本件車両を製造したことは当事者間に争いがなく、本件事故が急停車の際に助手席背もたれが前倒したために発生したことは前記認定のとおりである。

そこで、助手席背もたれ前倒防止装置を設けなかつたことが同被告の製造上の過失であるとする第一審原告の主張につき検討する。

自動車は、現代の社会においては有用な交通、輸送機関として広く利用され、高速度で走行するので、自動車製造者が瑕疵ある自動車(欠陥車)を製造し、これを販売した場合、運転者をはじめ同乗者、歩行者その他の者の生命、身体あるいは財産に損害を与える危険性が極めて高く、従つて、自動車製造者としては予見可能な危険を回避して安全な自動車を製造する義務があり、この義務に違反して欠陥車を製造・流通させた場合は被害者に対して直接に民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負うものと解すべきである。

〈証拠〉によると、本件車両は、ツードアー式で、後部坐席への出入りを容易にするため、助手席は折畳み式(背もたれを前に倒し、坐席の前部を支点として坐席全体をその後部が上になるように前に倒す。そのため、坐席の前部は固定されているが、後部は固定されていない。)となつていること及び後部坐席の前端と助手席の後端との間隔はわずか約一五センチメートルに過ぎないことが認められる。本件車両の如き自家用に使用される自動車は、市内を走行するバスと異り、高速度で走行することもあるので、助手席が空席の場合、後部坐席に坐る者が、後部坐席とフロントウインドとの間に相当な間隔のあることを老慮し、急停車等の際に身体が不安定になることを避けるため、助手席を折り畳まずに背もたれを立てた状態にし、また、後部坐席の前端と助手席の後端との間隔が前記のように極端に狭いので、走行中、立てた背もたれに手をかける姿勢をとることは、当然予測しうべきことであり、〈証拠〉によるも、本件車両と同一型式の自動車の後部坐席に坐る者は、走行中、助手席背もたれを立てておくのを通例とすることが認められる。従つて、本件車両を製造した第一審被告三菱重工は、後部坐席に坐つた者が、急停車、衝突等の衝撃により前のめりになり、背もたれに負荷がかかることがあつても、背もたれが容易に前に倒れないよう前倒防止装置を施し、後部坐席に坐つた者の生命、身体に危害を及ぼさないよう配慮すべき製造上の注意義務があるというべく、この義務を欠き前倒防止装置を施さなかつた同被告は、本件事故により第一審原告がこうむつた損害を賠償する義務を免れることはできないといわなければならない。

第一審被告三菱重工及び同横浜三菱は、本件車両が、道路運送車両の保安基準(昭和二六年七月二八日運輸省令第六七号)所定の保安基準に則り製造され、道路運送車両法施行規則第六二条の三第一項により昭和三九年一一月一九日運輸大臣の型式認定を受けたものであり、右型式認定を受けた当時背もたれに前倒防止装置を施すことは保安基準上義務づけられていなかつたこと及び他の自動車メーカーも前倒防止装置を施していなかつたことを理由に、第一審被告三菱重工の製造上の過失を争うが、保安基準は、取締規定に過ぎず、保安基準に違反しないことをもつて製造上の過失なしとすることはできず、また、他の自動車メーカーが前倒防止装置を施していなかつたとしても、そのことは、製造上の過失を否定する理由にはならない。

三第一審被告横浜三菱の責任

当裁判所も、第一審被告横浜三菱が本件車両を販売したことに過失はないものと判断する。その理由は、原判決の記載(原判決二六枚目表一行目冒頭から同二七枚目表一〇行目末尾まで)と同一であるので、これを引用する(ただし、原判決二七枚目表二行の「村沢証言」を「沢村証言」と訂正する。)。

四受傷〈省略〉

五損害〈省略〉

六過失相殺

第一審原告が本件事故当時に本件車両の後部坐席に腰をかけ、腕を組んでこれを助手席背もたれにのせ前かがみの姿勢で乗車していたことは、当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、第一審被告鈴木が本件車両を運転して横須賀市本町二丁目七番地先路上を走行中、急停車をしたのは、先行車が横断歩道の手前で横断者との接触を避けるため急停車をしたので、その先行車に追突するのを避けようとしたたためであり、その際同被告は先行車と約五メートルの車間距離をおき、時速三五キロメートル前後で走行中であつたこと、一方第一審原告は本件車両の助手席背もたれには前倒防止装置が取りつけられておらず容易に前倒することを認識していたにもかかわらず、前記のような乗車姿勢をとつていたため、車両に急制動がかけられた際の衝撃によつて身体が前倒し、本件事故が発生したことが認められ、〈る。〉

右認定事実によれば、本件事故に関して、第一審被告鈴木は、右急停車の際事故を防止できる車間距離(道路交通法二六条によると車間距離の保持が要求されており、右規定により安全な車間距離とされているのは、停止距離と大体同じ程度で、時速三〇キロメートルの場合は九メートル以上、時速四〇キロメートルの場合は一五メートル以上必要とされていることは公知の事実である。)をおいていたことにはならないので、車間距離不足の過失があつたというべきであるが、第一審原告にも、不安定な乗車姿勢をとつていた点に過失があつたといえるので、第一審原告の右過失を斟酌し、本件事故に基づく損害について、第一審被告鈴木、同三菱重工に対し、各七割の限度で賠償を請求することができるにとどまる(両者の関係は不真正連帯債務)。

七好意同乗

第一審原告と第一審被告鈴木は、ともに住友重機工業株式会社浦賀造船所に勤務する同僚であること、この両名は本件事故当日に行なわれた横須賀市議会議員選挙の投票所である久里小学校入口附近で偶然出会い、第一審被告鈴木の運転する本件車両に第一審原告が同乗し、その通勤途上で本件事故に遭遇したことは当事者間に争いがない。そして、〈証拠〉によれば、第一審被告鈴木は同僚である第一審原告に頼まれて無償で同乗させたことが認められ、〈る。〉

右認定事実によれば、第一審原告は頼んで同乗したいわゆる好意同乗者であるので、このことを考慮すると、信義則の観念を適用して、第一審被告鈴木についてその賠償責任を五割の範囲で軽減するのが相当であり、結局第一審原告は第一審被告鈴木に対しては本件事故による損害のうち三割五分の限度で損害賠償を求めうるにとどまるものと考える。〈以下、省略〉

(小山俊彦 山田二郎 堂薗守正)

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